ああ痛い。マジ痛い。
普通通りかかっただけの人間をいきなりボコって挙句、おとなしくしてるのをいいことに拉致るとかありえなくない?
一応新羅のところで手当てはしてもらってからだけどさ。
そもそも俺が今日体調不良なの知ってたよね?原因はシズちゃんなんだからさ。
っていうか首のとこ痛いんですけど!これ噛み痕だよね?!さっき新羅に指摘されたし!人がちょっと寝てる間に何したのさ!!
どんだけSなんだよシズちゃんの馬鹿!俺そんなにMじゃないんだからあんまり痛いのは嫌なんですけど!?
若干錯乱してる自覚はあったのだが、仕方のないことだと誰にともなく言い訳する。
まさか、シズちゃんに限って拉致監禁…いや、一応軟禁だけど…はないと思っていた。完全なる油断だ。
新羅のマンションからそのままシズちゃんのアパートの連れてこられてバスルームに押し込まれた。何故かシズちゃんも一緒に。
そのまま、混乱した頭が立ち直って体勢を立て直す前に、シズちゃんに手早く全身くまなく洗われてしまった。
汚れていたのは認めるが、そこは自分で洗うから洗わなくてもいいという箇所まで洗われて、さっきまでとは別の意味で息も絶え絶えの状態でベッドに放り投げられた。ほんと勘弁してよ。
「シズちゃん、別に逃げないからさ。そもそも逃げられる状態じゃないし」
足の捻挫が結構酷い。多分数日はシズちゃん相手に喧嘩するのはきついだろう。
だからさ。
「もうちょっと丁寧に扱ってよ。俺だっていい加減怒るよ」
「黙れよノミ蟲」
やっと落とされた声にはまださっきの喧嘩の興奮が残っている。
性欲よりも破壊衝動の色が濃い声に、思わず後ずさりそうになる。
「俺、今日はもう痛いのは一杯一杯なんですけど?」
精一杯睨みつける目線に力をこめる。
「そうだな」
おや?と思う間もなく押し倒された。
近づく顔に目を閉じれば、すぐに唇が重なる。
非常識な怪力を持つ怪物とは思えないぐらいそっと触れるだけのキス。
ほんとよく分からない。なんでこんなとこだけ優しいのさ。
何度も交わされる触れるだけの口付けに焦れて、男にしては柔らかい感触を確かめるように舌先でなぞれば甘噛みされる。
なんかムカつく。俺で童貞卒業したくせに。俺以外の身体知らない臆病なへたれ野郎の癖に。
舌を弄ばれてゾクゾクとした緩い快感が背筋を上ってくる。
ああムカつく。なんでそんなにうまいんだよ。って俺だよ!この単細胞馬鹿に教え込んだの!
「ん、んっ」
口腔をくまなくなぞっていく舌に翻弄される。
ああもう本当にムカつく!!
ガツッと、歯が当たる音と同時に力ずくで引き剥がされた。
口内に広がる血の味に唾を吐きたい衝動に駆られる。
「手前…」
舌を噛んだって言うのに大して痛がる様子もない目の前の男を睨みつける。
そして、ムカつきのままつい口にしてしまった言葉は明らかなミスだった。
「このへったくそ」
感じてしまった負け惜しみを隠してそう言えば、獰猛な猛獣の目に火が灯ったのがはっきり見えた。
あー…しまった、かも?
「え、っと…シズちゃん…?」
ぐいっと髪を掴まれて強引に口付けられる。
血の味が口の中に広がって思わずもがくが力の差は歴然としていて無駄な抵抗だった。
角度を変えて何度もなされる口付けは決して途切れない。
息苦しさに生理的な涙が滲む。
「…んっ……ッ…うーッ」
そのまま唾液ごと血を飲み込まされた。
不味いだけのはずなのに妙に興奮して、頭がくらくらする。
深いキスに煽られて熱の灯った体が、満たしてくれるものを欲して意思とは関係なく震える。
そんな俺をサディスティックな目で見下ろして、
「はっ、愉しませてもらおうか?淫乱野郎」
シズちゃんは本当に、心底愉しそうにそう言った。
…ねぇシズちゃん。この状況でテンプレくさい台詞は頭が悪そうに見えるよ?と今言ったら、やっぱ殺されるかな?












※喧嘩とセックスの境界線があいまいな二人。