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「シズちゃんって最近もてるよねー」
「………」
ふと口にした言葉に何か言いたげに自分を見上げる静雄に、臨也は不思議そうに目を瞬く。

「何?」
問えば視線が逸らさせる。

「シズちゃん何?言いたいことがあるんならはっきり言ってよね」

答えはない。
沈黙沈黙沈黙。
そろそろもう一回聞いてみるかと臨也が口を開こうとした時、静雄はようやくポツリと呟くように言った。

「……嫉妬、してねぇのか?」

その言葉に臨也は一瞬きょとんする。

妙に無防備なその表情を睨みつけるように、静雄が再度、
「嫉妬とかしねぇのかよ」
と問うた。

「…sit…?……ああ、嫉妬ね」
「なんで英語なんだ」
「や、何となく?」
「手前は日本人だろうが」

大して意味もなく口から滑り出た言葉を何故かいつまでも追求される。
そのことに僅かとはいえ苛立ちを覚えた臨也は話を戻すべく口を開いた。

「…あのね、シズちゃん。君が問題にしてたのはそこじゃなかったんじゃないの?」
「……そうだな」

どこか納得のいかない表情で頷く静雄に、臨也は畳み掛けるように話を持っていく。

「そうだよ。で、俺が嫉妬するのかって話だよね?」

ぺたりと静雄の胸に頭を預けて臨也はうーんと考え込む仕草をした。
しばらくの黙考の後、ふと視線を虚空から緩く自分を抱きしめている相手へと移す。
見上げる視線を受けて、静雄の心臓が妙にうるさくなったが、聞こえているはずの臨也に気にした様子はない。

「だって、シズちゃんと俺ってつがいだもの」

指先だけで静雄の唇に触れ、そっとなぞる仕草に性的なものはなかったが妙に艶かしい。

「俺とシズちゃんは、結局お互いが一番なの。分かるでしょ?俺がシズちゃんを殺すかシズちゃんが俺を殺すまで、絶対にお互いが一番なんだよ」

それはただただお互いにとっての事実だった。
まるで生まれた時からそう定められていたかのように、それだけが事実だった。
決して良い意味の一番ではない。だが、それでもお互いが一番…唯一だと、互いに知っていた。

「いっつも頭の片隅にあって、会うと一瞬でそのことしか考えらんなくなるくらい、俺とシズちゃんはお互いが一番なの」

しょうがないよねと珍しく邪気のない微笑みを向けるイキモノは、静雄にとって確かに唯一だった。
殺して奪って、相手の全てを自分のものにしないと気が済まない暗い衝動。
その反面で、大切に大切に腕の中に囲って閉じ込めてただひたすらに甘やかしたい衝動。
本能と言ってもいいくらい相手を求めずにいられないことは分かっている。
“つがい”という言葉は、良くも悪くも的を得ているのだろう。

「…そうだな。それが俺と手前だ」
「うん」

嬉しそうに笑った臨也を抱き締める腕に…それでも加減して…力を込める。
抵抗もなく素直に収まる身体は確かに男のもので無駄のないしなやかな筋肉に覆われているが静雄に比べればはるかに細く華奢だ。
到底静雄に対抗できそうにない外見のこのイキモノは、だが確かに命の奪い合いをして壊れないだけの強さを持つ存在なのだ。

「ねぇ、シズちゃん」
「ああ?」
低く柔らかく響く声は歌に似ている。と静雄は思いながら応えを返す。
「俺はシズちゃんのこと大っ嫌いだけど、でも、殺したいほど好きだよ」
甘えてくる仕草は猫を思わせる。
「俺もお前が反吐が出るほど嫌いで、殺したいほど好きだ」

だからこそのつがいなのだ。
どこまでも互いの命を奪い取りたいと願って止まないのだ。
静雄の臨也を抱き締める腕にさらに力がこもり、骨が軋む音がする。
ゆるりとその腕に絡みつく自分の手を横目に。
満足そうに目を細め、臨也は自分だけの唯一を抱き締め返した。


ねぇシズちゃん。いつかさよならが来るまで、俺のことを一番に考えててね?












※ヤンデレ?な二人。殺意と愛情が紙一重。
ところで、ずっと膝抱っこしてるんだけどそれってどうなんだ…?