幸せの形
臨也さんを幸せにしよう企画 『はぴいざ!!』 賛同作品その6。来神ドタイザ。

















「あ、ドタチンはっけ〜ん!」
そう言いながらドンとタックルをかました臨也に、屋上の柵に背を預けて座っていた門田は小さく息を吐く。
「お前な…」
「図書室にいると思ったのにいないんだもん」
ぷうと膨れてみせる相手の態度は、到底高校生には見えなかった。
…これを可愛いと思うのは、付き合ってる欲目ってヤツなんだろうか。
そう考えて、また溜息。

「臨也、お前昼飯は?」
「新羅と食べたよ」
「…そうか」

教室に戻ってやるべきだったか、と一瞬考えたが、思考はすぐ中断された。
門田の前にしゃがみ込んだ臨也は、そのまま覗き込むように視線を合わせてきて。

「ドタチンちょっといい?」
「ん?」

そう言って、手を伸ばしてくる。
何をするのかと止めずに見ていれば、臨也の行動は迅速だった。

「足ちょっと開いて」
「?」
「手はこっちー」

足の間にぽすんと座り込んで、寄りかかってくる臨也に何と言えばいいのか。
止めるべきだったかと後悔しても、後の祭り。
傍から見れば門田が臨也を後ろ抱きに抱きしめているような構図が出来上がる。
しかも。

「ドタチンの匂いだ…」
「………」

などと顔を胸に頭を預けて、安心しきった表情をするものだから、退けようとかそんな考えさえ失せてしまう。
くつろいでる猫みたいな顔だな。
そんな感想を抱きながら、門田はそっと臨也の髪を撫でてみた。
少し不思議そうな顔をして、それからふにゃんと緩む表情が、妙に幼くて可愛い。

「ねぇドタチン」
「…なんだ」
「俺、ドタチンのこと大好き」
「………」

蕩けるような笑みで言われて、門田は僅かに目を瞠る。
もう何度も聞かされた言葉だが、何度聞いても、胸がざわつく言葉だ。

「もちろん人間も好きだけど、ドタチンは特別好き。大好き」
「………」
「あ、信じてないでしょ?」
「………信じるさ」

そんな顔をされては、嘘だとしても信じてやるしかないだろう。
どうしようもない性格の、たちの悪い厄介な相手だが、少なくとも、こんなふうに甘えてくるのは自分にだけだと確信している。
くすぐったいような気持ちと、これを独占している満足感と。
そんな想いを抱きながら、腕の中の温もりに目を閉じかけて――。
ああ、そういえば、と思い出した。

「お前、もうすぐ誕生日だっただろう」
「ん?…ああ、そうだね、そうかも」

5月4日。ゴールデンウィークの最中が臨也の誕生日だ。
その日一日くらいはこいつのために空けてやるかと考えて、門田は問う。

「何かして欲しいことはあるか?」

少しの間。
不思議そうな顔で門田を見ていた臨也が、小さく首を傾げた。
ほんのりと染まった頬は、たぶん門田の見間違いではないはずだ。

「んー…じゃあ先払い…は違うか。でも、今ぎゅーってしてよ?」
「………」
「ドタチン?」
「…ああ、いや…お前、実は欲がないよな」
「え?あるけど…?」
「……」

ないだろ。そんなもので満足するとか、欲がないにもほどがある。
誰かに何かしてもらうことを期待しなかったのだろう臨也に、たまらなく甘やかしてやりたい気分になって。
ぎゅうっと後ろから包むように抱きしめてやれば、臨也は身体の力を完全に抜いて門田に身を預けてくる。
嬉しそうに小さく笑うその顔を真正面から見たかったなと密かに思いながら。
門田は臨也の唇に己のそれを重ねるために、相手の頬に手を伸ばしたのだった。












※ドタチン大好きで仕方ない臨也さんとそんな臨也さんが可愛くて仕方ないドタチンの話。