傍迷惑(仮)
※匿名さま「シズイザ来神時代で修学旅行。素直になれない臨也と緊張してる静雄に振り回される門田と新羅」















――なんと言うべきか。
彼らの恋は実にもどかしい。
まさに隔靴掻痒というべきか。
見ているこっちが苛々しそうなほどに、もどかしいのだ。
もっとも、臨也と静雄が付き合いはじめてからまだ一週間。なんとも微妙な時間である。しかも、根が素直とはほど遠い臨也と、誰かと付き合うということ事態が初めてで緊張し切っている静雄だ。そう簡単に世間一般の恋人のような関係になれるはずもない。
だが、それにしても。
あと一歩踏み出せば埋まるはずの距離が一向に縮まらないのは、果たしてどちらのせいなのか。





「…にしてもさ、こんなところに来てまでとか、勘弁して欲しいよね」
「同感だ」

遠い目をした新羅に、門田が重々しく頷く。
目の前では、互いを気にしながらも何から切り出せばいいのか分からず、結果黙々と(だがチラチラと互いを盗み見ながら)朝食をとる臨也と静雄の姿があった。
――修学旅行。それなりに面白く、また、それなりに面倒なこの行事は、この二人のせいでますます面倒なものになっている気がすると新羅は嘆息する。毎度毎度巻き込まれる身としては、いい加減腹を括ってほしいと思ってしまうのも仕方ないだろう。

「…僕は朝から気が重いよ」
「安心しろ。俺もだ」

目の前の二人と同じように食事をとりながらも、どうしても箸が進まない新羅と門田はほぼ同時に小さく溜息をついたのだった。





味わうことすら出来ぬまま朝食を終えて。
新羅たちは、本日のメインイベントをこなすためにバスに乗っていた。
当然のように門田の隣に座る臨也に、静雄が苦虫を噛み潰したような表情をしたが、結局何も言わなかった。

「んー…」

もそもそと身じろいで、眠そうに目を擦る臨也。と、それを横目でちらちらと気にする静雄。
本当にいい加減にして欲しい。

「おい臨也、大丈夫か?」
「う、ん…大丈夫。ちょっと眠いだけだよ」
「着くまで寝ててもいいぞ」
起こしてやると言う門田に、ドタチン大好き!と抱きつく臨也には、実は確信犯なのではないだろうか。
新羅は隣の静雄の様子に慄きつつ、そう思う。
なぜなら、
「おい、静雄が見てるから止めろっ」
と門田が小声で静止した時、臨也は静雄の方をちらりと盗み見て、口の端を歪めたからだ。
素直じゃないにもほどがある。構って欲しいなら最初から素直に甘えればいいだろうに。
“初めてのお付き合い”で緊張している静雄を相手に、その変化球は酷だとしか言い様がない。

「…あー…でもやっぱり眠いから着くまで寝るね」

ふあ、と欠伸をして。
臨也は門田の肩に頭を預けた。
それが、静雄の我慢の限界だったらしい。
みしり、と掴んだ椅子の背もたれを軋ませて。
立ち上がった静雄は、そのまま通路を挟んだ反対側の座席に座る臨也に向かった。

「おいノミ蟲」
「………」
「おい」
「………」
「手前、何無視してやがんだ臨也くんよぉ」
「うるっさいなぁ。俺は今眠いの。シズちゃん自分の席に戻りなよ」
「…ってだからなんで門田に凭れて寝てやがんだ!」
「……いいだろ別に。シズちゃんに関係ないし」
「〜〜〜っ!関係はあるだろ!?」
「……へぇ、どんな関係さ?」
「そ、それ、は…」

問われた途端、耳まで赤くなって黙り込む静雄。
ああっ、遊ばれてるよ静雄!
頭痛がしてきた新羅は額に手をやり、臨也の隣の席だったがために問答無用で巻き込まれた門田は眉間に皺を寄せたまま、寝たフリを続けている。
にやにや笑う臨也は、静雄の視線を独り占めしている事実にいたく満足そうだ。本当に素直じゃない。

「なあにシズちゃん?俺と君の関係って恋人だよね?違った?」
「っ、違わねぇ…けど」
「ははっ、そうだよねぇ。忘れてるとかだったらどうしようかと思ったよ」
「それはねえよ!…だ、だから、門田に手前が寄っかかってるとか…っああああ」

またしても真っ赤だ。
自分が言っていることに恥ずかしさがこみ上げてきたらしい。

「へぇ、何?一丁前に独占欲?へぇ、ふうん?」

からかう調子の声を出す臨也だが、その頬はほんの少し赤い。にやにや笑いで相殺されてしまっているため静雄は気づかなかったようだが、確かに赤い。

「手前、いいから離れろ」
「嫌だね」
「離れろ!」
「嫌だって言ってんだろ」

痴話喧嘩めいた言い合いをする二人に挟まれる門田は不憫だが、新羅を含め周囲は誰も何も言わない。教師でさえ触らぬ神になんとやらで視線さえ向けないでいるほどだ。
それから言い合うこと約15分。
ようやくバスが止まるころには、バス全体がなんとも言えず重苦しい雰囲気につつまれていた。
だが、そんなこと気にもしないのが彼らだ。

「あ、着いたみたいだね。ドタチン、行こ?」

静雄の存在をわざと無視して門田の手をとろうとする臨也。
ぶちり、と何かが――たぶん血管――の切れたような音がした。
緊張がピークに達し、静雄はテンパったまま怒鳴る。

「っ!門田門田言ってんじゃねぇ!手前は俺の隣に居りゃあいんだよ!」

分かったらさっさと来い!と臨也の手を引く静雄に。
臨也は、なにそれ横暴!と叫んだ。
だが、痴話喧嘩ですらない痴話喧嘩に巻き込まれた二人の目には、真っ赤な顔をして俯く臨也と、同じく真っ赤な顔で微妙にぎこちない歩き方をする静雄の姿が映っていて。
それは、

――ああもう、勝手にやってろ。人を巻き込むな。

と、思わせるに充分な光景だったのであった。












※没ver. このパターンでいくつかやってどうにもしっくり行かなかったので変更になりました。