譲れないもの
※匿名さま「猛獣設定の「きちんとききかんりをしましょう」の続き」




















机の上のナイフを一本一本しまっていく臨也を眺めながら。
静雄は「手前は余計な手は出すなよ」と念を押す。
それをチラリと見て、臨也は不本意そうに顔を歪めてみせた。

「君の報復が温かったら、分からないかもよ」
「……安心しろ。手加減は…あんまり出来そうにねぇ」
「ならいいけど」

頷いて静雄の目を見つめる彼は、思ったよりもずっと静かな目をしている。
そのことに安堵し、静雄は自分の失態を改めて悔いた。



5日ほど前。
静雄は毒薬を飲まされ、生死の淵をさまよいかけた。
生き残ったのはひとえに静雄の強靱な肉体と生命力によるものだと、新羅は呆れたような顔で言っていた。
静雄が危険に晒されたことに激高したのは本人ではなく、幼馴染であり恋人である臨也の方で。
報復はあって然るべきと静かに怒りをたぎらせる彼を押し留めることは難しかった。
報復は自分でする。調子が戻るまで待て。
そう何度も言い聞かせて待たせて。それでも臨也を止めておけたのはたった5日間だけだった。



「…とにかく手前は手を出すなよ。必要なら俺から言う」
「シズちゃんは優しいからなぁ」

本当に手加減はしちゃダメだよ。と念を押して。
臨也は最後のナイフをポケットに無造作に突っ込む。
それを見つめながら、静雄は手加減なんかしねぇよと心の中で呟いた。
臨也には言っていないが、静雄に毒薬を飲ませた男とその仲間の狙いは静雄だけでなく臨也もだったのだ。静雄を殺した後に、臨也をどうするつもりだったのか。考えただけでムカつきを通り越して殺意が沸く。殺す気はないが、再起不能にしたっていいくらいだと思っていた。

「臨也」
「なに?」
「抱き締めさせろ」
「……なに?まさか怖じ気づいたんじゃないよね?池袋最強ともあろう男が」
「違ぇ。ただ、抱き締めたいと思っただけだ」
「…ふぅん。まあいいけどさ」

ゆっくり近づいてきた臨也にじれて、自分からも近づいて手を伸ばして腕を掴んで引き寄せて抱き締めて。
静雄はその温もりに安堵する。
もしあの時、自分が死んでいたら。
そう思うと寒気すら感じる。
あんな男たちにやられる臨也ではないだろうが、報復を終えた後、確実にこの幼馴染は自分の後を追うだろう。
それが分かっているから、静雄は決して死ぬわけにはいかないのだ。
なにより、こいつを殺していいのは俺だけだと静雄は決めていた。
たとえ臨也自身にでさえ、その死をもたらす権利を与える気はなかった。だから、自分が生きていたことに安堵し、臨也がこの腕の中にまだいることに安堵する。

「…そろそろ行くか」

ちゅっと大人しく腕の中に収まっていた臨也の額にキスを落として。
静雄はそう言って、滑らかな黒髪を優しく梳く。

「うん。そろそろ行こう」

静雄の行動の理由を聞くことなく――たぶん本当はすべてを知っているのだろう幼馴染は静雄の手に自分の手を重ねた。

「自分たちが誰に手を出したのか、きちんと思い知らせてやろう」

その言葉に頷いて。
静雄は、自分たちに二度と手を出せないように敵を叩き潰してやろうと心に決めたのだった。












※報復にいく前の話。

最初リクエストに沿って普通に報復に行った二人を書いていたら思わぬ事態(グロ系)になってしまったので、急遽変更しました。おかしい…シズちゃんが臨也を止めてくれると信じていたのに…。結局前段階だけで終了になってしまってごめんなさい…。
遅くなった上に、たぶん想像されていたものとまったく違うものになってしまって申し訳ありませんでした!
リクエストありがとうござました!