餌付けは順調の模様です
※「餌付けしてみました」の続き。
匿名さまリクエスト「料理上手な臨也の続きで他の人に料理をご馳走したことがあると聞いてやきもちを焼く静雄」










臨也がうっかりその気もなしに静雄を餌付けしてしまってからそれなりに経った。
同様に、ほぼ毎日のように訪れる静雄に合わせて食事を作る習慣が出来始めてからもそれなりに経っている。
何故こんなことになったのか。臨也は自分の発言の愚かさを呪いながら、それでもいつも通りに料理し。
そして、今日も犬猿の仲であるはずの二人は同じテーブルについて遅い夕食をとっていた。





別段手の込んだものを作る理由もなく、本日の夕食は海老ドリアとカジキマグロのから揚げ、ポテトサラダとさらに野菜を大量に使ったコンソメスープだ。しかも大盛り。…しつこいと言うなかれ。静雄に合わせるとどうしてもこういうメニューになりがちなのだ。(なにしろ昨日はデミグラスソースをたっぷり使ったハンバーグだった。)
作ったものの大半が静雄の胃袋に消えるのはいつものことなので、そこに異論はない。
当然、臨也は自分用は少なめに盛った上でから揚げはスルーした。そんなに食えるか、というのが彼の本音だ。

「よく食べるねぇ」

いっそ見ていて気持ちがよいほどの食べっぷりは初回から変わらず健在で。
思わずそう呟いた臨也に、静雄はん?と顔を上げた。
口の中のから揚げを咀嚼する。
そして、こくりと飲み込んでから口を開いた。

「手前が食わなさ過ぎるんだ」

途端、臨也の顔は心外だといわんばかりに顰められる。

「君と一緒にされても困るよ。俺は基本肉体労働の君と違ってデスクワーク中心だし、そもそも君のそれは普通の人間の適量を大幅に外れてる」
「…そうか?」
「そうだよ」

そう言いつつ、臨也は自分の皿の上の付け合せのブロッコリーをつつく。
先程から何度も繰り返されているそれに、静雄は眉を寄せた。
臨也と食事をするようになってからたびたび見られる動作だ。
渋面を作って野菜を皿の端に寄せる動作。
それはまるで――

「手前、野菜嫌いなのか?」
「…嫌いじゃないよ」
「じゃあ、苦手なのか」
「…ほっとけ」

ふうんと呟く静雄を睨み、臨也は口の中にブロッコリーを放り込んだ。
渋面のまま咀嚼する。
まるで子供だ。
静雄が呆れたような顔をすると、睨む視線がきつくなる。

「好き嫌いの問題で言えばどっちでもないよ。ただ、どちらかというといらないだけで」
「でもちゃんと野菜料理も作るじゃねぇか」
「そりゃ、何度か倒れればいい加減改善する気にもなるさ」
「…倒れたのかよ」

あ、と失言に気付いて、臨也はむくれた。
ああそうですね。倒れましたよ。と小さな声が聞こえ、静雄は呆れ半分に苦笑する。

「…自分で作るのは、自分好みの味付けにすればちょっとはマシってだけ」

こいつは鍋の野菜は残すタイプだな、と思いつつ。
静雄はさて、と言葉を探す。だが無難なフォローは見つからなかった。
よって、

「俺はお前の作る飯好きだぞ」

と、相手の料理の腕を褒めてみる。
これは予想していなかったのか、臨也はきょとんとした顔で眼を瞬かせ。

「…どうも」

どこか困惑気味の礼は静雄から視線を逸らした上で口にされた。
こうしていればかわいいのによ。と、考えて、静雄はその思考に動きを止める。
かわいいってなんだ?こいつのどこが?というか俺はなに考えてんだ?
ぶるぶると頭を振って浮かんだ考えを追い出そうとする静雄に。
臨也はなにしてんのさと首を捻ったが特に追求する気はなかったのか、ふと思い出したように「ああそう言えば」と呟いた。

「新羅やドタチンも美味しいって言ってくれてたよ」

………。
妙な思考はその言葉できれいに追いやられた。
ちょっと待て。

「…あいつらにも、食わせたのか…?」
「ん?…うん。最初はいつだったかな、新羅は今でも時々、ドタチンはごくたまに作るよ。飲む時とかも何か作るしね」

それがどうかしたのと邪気のない顔で問われて、静雄は言葉に詰まる。
自分でも何故そんなことを訊いたのか、何故それがそんなに気にかかるのか、よく分からなかったのだ。

「…………」
「…シズちゃん?」

首を傾げ名を呼ぶ相手に、静雄はただ黙って目まぐるしく思考を巡らせる。
クソ、別にノミ蟲が誰に何作ったっていいじゃねえか。俺には関係ない。そうだ関係ないんだよ。ああクソッ、だったらなんだって俺はこんなに苛々してんだよ。むかつくむかつくむかつく。クソ!!
口に出すことなく、ひたすら否定と疑問を繰り返す。
しばらくそんな状態で沈黙は続き――。


「臨也」

静雄は絞り出すような低い声で目の前の相手を呼んだ。

「…なに?」

対する相手はまるで静雄の葛藤を理解していない。
ただのんきにシズちゃんどうしたんだろ?くらいにしか思っていなかった。
なので、

「手前、もう俺以外に飯作んな」

という静雄の言葉に本気で唖然とし、その言葉に含まれた無意識の独占欲に気付きもしなかった。
それどころか、命令されたことにムカつきを覚えて眉根を寄せる。

「……なんで君にそんなこと指図されなきゃいけないのさ。っていうか、別に俺君の専属料理人じゃないんですけど」
「うるせぇ!とにかく作るな!!」
「怒鳴らないでよ煩い。食事中に大声禁止」
「……あ、わりぃ」
「分かれば良いよ」

素直に謝る静雄に、臨也はそれ以上はなにも言わず。
ただ、いまだ納得していない静雄の表情に溜息をつく。
そして、食べ終わった静雄の皿を見てから冷蔵庫を指す。

「プリン作ってあるから、後で食べようか」
「ああ、わかった」
「じゃあもう少し待っててね」
「おう」


プリン。
この言葉に誤魔化されたことに静雄が気づくのはずいぶん経ってからのことだった。












※付き合ってないけど状況限定休戦協定中な二人。

やきもちを焼くとのことだったので、シズ→イザ風味になってしまいました。
リクエストありがとうございました!