たぶんそれは必然だった
※吸血鬼が人間と敵対してる設定の吸血鬼パロ。
夜来さまリクエスト「MEMOの吸血鬼パロでシズイザ」










折原臨也は平和島静雄に飼われる吸血鬼である。
吸血鬼を狩るハンターの間では有名なその事実に、臨也は断固抗議する。

「シズちゃんが俺を飼ってるんじゃなくて、俺がシズちゃんに飼われてやってんの」

そう文句を垂れつつマグカップの中身を啜る彼の首には赤い首輪がつけられている。
それは他でもない静雄の所有物の証なのだが、本人はそのことについては触れられたくないらしい。
ハンターの血をもってその能力の大半を封じられている臨也はほぼ普通の人間と変わらなかった。
後天性であっても吸血鬼は吸血鬼。発症してから以降長らくハンターに命を狙われ続けた臨也は、だが、今は静雄のおかげで平穏な生活を送っている。

「大体さ、前提からして間違ってるしああムカつく」
「…君のせいで静雄が苦労しているんだってこと、君はちゃんと理解してるのかい?」
「は?何言ってんの?迷惑被ってるのは俺の方だよ?」

自覚がないらしい赤眼の吸血鬼に、新羅は静雄もかわいそうに、と呟いた。
ハンターが吸血鬼を飼うなど前代未聞のことで。反対の声も多く、静雄のただでさえ微妙な立場は臨也のせいで益々悪化しているのだ。
ちびちびと人工血液の入ったカップを傾ける吸血鬼に溜息をつくしかない。

「そもそもさ、シズちゃんが俺を殺さないのが悪いんだよ。俺を殺せば万事解決だったのにさぁ」

静雄は臨也を殺さなかった。確かに、それが全ての原因だと言ってもいい。
新羅も全てを知っているわけではないが、臨也と静雄の因縁のそもそもの始まりは今から10年前――静雄が中学生だった時に遡る。
一部の者しか知らないが、中学生の頃、静雄はハンターであると同時に吸血鬼の下僕になった。まだ今ほど強くなかったために殺されかけ――これを聞いた時新羅は本気で驚いたものだった――、それをよりによって吸血鬼に救われたらしいのだ。
静雄は何年にも渡って自分を『下僕』として生かした吸血鬼を探していた。そう――殺すためだけに、だ。
だというのに。

「まあ、ある意味すごい引きだよね。まさか臨也が静雄の『主』だったなんてさ」
「…ホント、あの時の自分を呪いたい気分だよ。あの死に損ないを拾いさえしなければこんなふうにハンター如きに隷属させられ――」

台詞の途中で、ぴたり、と臨也は発声も動きすらも止めた。
きょときょとと視線を動かし、あ、と小さく呟いて、玄関の方を見る。

鍵を回す音とドアが開く音。
どうやら新羅の待ち人が帰ってきたらしいのだが、それにしては臨也の反応が解せない。
首を捻った新羅だが、その答えはすぐに分かった。

『ただいま。途中で静雄に会ったんだが、臨也は…いるな』
「シズちゃん、お疲れー」
「ったく、何処に行ったのかと思ったらこんなとこにいやがったのか」
「だって暇だったんだもん。シズちゃん定期報告で本部にいくって言ってたし俺ついてけないし」
「だ・ま・れ」
「…はーい」

先程までの毒舌は何処へやら、けらけらと笑いながら静雄の首にしがみつく臨也はご機嫌だ。
少なくとも、静雄を“ハンター如き”と嘲る尊大な吸血鬼の姿はそこにはない。
力ずくで引き剥がされて不満げにむくれる臨也を呆れながら見ている新羅に、静雄が声をかけてきた。

「あー…この馬鹿が迷惑かけたな」
「セルティが仕事だったから構わないよ。もしそうじゃなかったら邪魔なだけだったけど」
「ひっど、新羅ひっどいよそれ!」
「僕らの愛の巣に勝手に来てる君が悪い」
「いいもん。俺シズちゃんに構ってもらうし」

ぷいっとそっぽを向く。発症以降その精神の成長を著しく減退させた臨也はいつまでもどこか幼いままだ。
静雄が盛大に溜息をついて、臨也の頭を軽く叩く。
痛いと上がる声は無視された。

「あー…ホント、わりぃ…」
「いいよ。慣れてるからね」

臨也と新羅は中学以来の付き合いで、新羅は臨也の発症から今に至るまでの全ての過程を記録している主治医でもある。我侭な患者の扱いにもすっかり慣れたものだった。
少しほっとしていると言ったら、君は怒るかな?そう心中で呟く。
新羅にとって臨也は悪友だ。実際は友人と呼ぶには少しずれた位置にいる彼を、新羅はそれなりに見守ってきて。
静雄に手渡した今も、それなりに心配はしていたのだ。
だから、今の穏やかな臨也を見て、これ以上の症状の進行はないだろうと安堵する。

『臨也、あんまり静雄を困らせるな』
「いいんだよ。シズちゃんは俺のなんだからって、痛いよシズちゃん!」

PDAに綴られた言葉に主張した臨也が、その静雄自身の手で制裁を受ける。
ぎゃんぎゃんと抗議する彼に、静雄は低い声で威嚇した。

「誰が手前のだ」

言われて、首を傾げて。
臨也は自分と静雄を交互に指す。

「シズちゃんが、俺の」
「ああ?」

すごい形相で睨まれる。
その対象でないはずの新羅も思わず後ずさるほどだったので、目の前の臨也にもそこそこ効果はあったはずだ。
凄まれることに慣れている彼も一瞬眉根を寄せて、はふ、と溜息をついた。

「………じゃあ、俺がシズちゃんので、我慢する」

呟かれた言葉は思ったより謙虚なもので。
それに満足したのか、静雄は頷いて臨也の頭を撫でてやっている。

「臨也、それ意味不明だよ」

言えば、そうだねと苦笑して。
臨也は新羅にしか分からない合図を送ってきた。
“大丈夫だよ”というその合図が、何に対して大丈夫だと言うのか分かってしまって、新羅も苦笑を返すしかない。
いつの間にか静雄の方から掴んで握り合った手がそれを裏付けていた。

「ったく…ほら、帰るぞ」
「ん」

触れ合う方の手を引かれて、こくりと頷いて。
きゅっと静雄の手を握り返した臨也が、とても幸せそうに笑った。



折原臨也は平和島静雄に飼われる吸血鬼である。
そこに、恋人として、という言葉を付け加えたならば。
たぶん、それはほんの少しの間違いを含むだけでほぼ真実であるのだと、新羅はそう思う。












※わりと普通に両想いなふたり。

ほとんど新+臨だった件…。あと、元が長編設定だったので色々説明不足ですみません…。
基本、時々吸血鬼関係でごたごたに巻き込まれつつシズイザがいちゃらぶしてる話の予定でした。
臨也が吸血鬼になった経緯とか、シズちゃんにとっ捕まった時の話とか、恋人になるまでとかなった後とか。そんなのだらだら書くのやだなぁと止めたんです…長編は企画倒れになる管理人ですみません…

リクエストありがとうございました!