Happy Birthday, My Dear
※2013臨誕。シズ⇔イザ。24時間戦争コンビの恋を(時にそっと手を差し伸べつつ)生暖かく見守ろうの会主催、臨也さんの誕生日企画(笑)たぶん愛され臨也。たぶん。タイトルが静誕と一緒なのはわざとです。

















今日は何かがおかしい。
ゴールデンウィークだろうが何だろうが関係ない情報屋である臨也は、ここ数日のめまぐるしさからようやく開放されたというのに、奇妙な違和感にいまだ頭を休められずにいた。

違和感の始まりは友人の岸谷新羅から。
ちょっと家に来てよと呼び出されて赴いた先で誕生日を祝う言葉と共に渡されたのは、紙袋一杯の包帯とガーゼと湿布。あと、用途不明の液体入りボトルが一本。
そして、意図が読めず首を傾げる臨也のことなどまったく気にした様子もない友人に早々に追い出されて池袋の街中を歩けば、次は学生3人組。
やはり祝いの言葉と共に渡されたのは、前に木田にお使いを頼んだこともある有名店のプリンだった。シンプルなものから季節限定まで。一通り揃えてあるらしいそれらにまたしても首を傾げるが、今日中に食べてくださいねという言葉と共に置き去りにされた。

こんなにたくさんどうしろというのだ、今日中に食べるとか無理だろ。
そう思いつつ歩くこと数分。
いつものワゴンに乗った門田に会った。
プレゼントこそなかったが学生時代によくされていたみたいに頭を撫でられて、気恥ずかしくなりながら礼を言う。そんな臨也に返されたのは何故か「頑張れよ」なんて言葉で。臨也は「何のこと?」と問うたが曖昧に笑って答えてはもらえなかった。

その後も、そういえばと思い出して仕事の報告をしようと四木に電話をすれば「今日はせっかくの誕生日ですし、自宅でゆっくり休んでください」なんて言葉をかけられたり、プリンを持ったままだったがまあいいかと露西亜寿司に入ろうとしたものの何故かサイモンに入店を断られたり、九十九屋から誕生祝いのメールが来て一瞬携帯をメールアドレスごと全部変えてしまおうかと思ったり。
何らかの小さなアクションと共にいろいろな知り合いに所々でかけられる言祝ぎに、臨也の混乱の度合いは段々と増していく。
俺、明日死ぬとかじゃないよねぇ…。
そんなことまずないと分かりつつもついそう不吉な想像を過ぎらせる程度に、今日の臨也の周囲は違和感だらけだった。

「なんか不気味だなぁ」
そう思いながら、ゆっくりと池袋の街を歩いていく。
と、後ろから「あ、イザ兄だ!」という声と背中への衝撃。
うっと呻いてよろめきながらも何とか態勢を立て直して振り返れば、分かりきったことだが妹がいた。

「げ、九瑠璃に舞流」
「げ、はないよイザ兄」

面倒なのに捕まったと嫌そうな顔をする臨也を気にした様子もなく、舞流は臨也に抱きついた態勢のまま笑顔を向けてくる。その屈託になさに意図せずため息が零れた。

「あ、そうだ!イザ兄、誕生日おめでとー!」
「…誕…祝」

プレゼントはないよ!
と朗らかに言い放つ妹に呆れ混じりに苦笑しつつ、臨也は頷く。

「あー…アリガトウ?」
「どういたしまして!今日はイザ兄にとって特別な日だもんね!」
「…いや、別に俺にとっては誕生日だから特別ってわけじゃないけど」
「…黙…行…」
「あ、そうだった…いいのいいの!とにかく今日は特別な日なんだから!」
「…………お前たち、一体何を隠してるんだ?」
「何モ隠シテナンカイナイヨー」
「…否…」
「いや、絶対何か隠してるだろ?」
「あ、クル姉!そろそろ行かないと!」
「おい、九瑠璃、舞流!」

じゃあね、と手を振る双子は呼び止める臨也の言葉など無視して方向転換。小走りで走り去ろうとする。
「イザ兄、プリン温くなる前に帰ったほうがいいよー!」
そんな言葉を残して見えなくなった背中にまたため息を吐いて。それから臨也はふと気づいて首を傾げた。
「そういや…あいつら何でプリンだって知ってたんだ…?」
中身を見たわけでもないのに、と不思議にお思いながらプリンの入った袋を見るが、答えなど出ようはずもなく。
もう幾度目かも分からない違和感を感じつつ臨也は歩き出そうとして――。
ピタリ、と動きをと止めた。
すぐ近く、いつの間にかある意味においてはよく知っと言えるた人物がそこにいて、明らかに臨也に視線を向けていた。
変装していようが誰かなどすぐに分かる。

平和島幽がなんでここに、と内心呟く。
臨也の天敵――平和島静雄の弟。そして、たぶん臨也にとっては目下最大の要注意人物。
嫌い嫌いと口では言いつつも、密かに想っている相手の弟。今のところ静雄に対し素直になる気も告白する気もない臨也にとって、彼はある意味静雄以上に注意を払うべき存在だった。
気付かなかったことに舌打ちして、にこりと営業用の笑顔を浮かべる。

「やあ、久しぶり――」
「お久しぶりです。それと、これ、どうぞ」

挨拶はあっさりというかばっさりというか、とにかく最後まで言えず遮られた。
「え?あ…ちょっと、幽くん…?」
ずいっと差し出された小さな袋を反射的に受け取れば、一度会釈して幽は踵を返す。
妹たちと違って止める間もない。あっという間に人ごみに紛れた後姿を呆気にとられ見送ってしまって。
「…ええ…と…どういうことなの…?」
臨也は疑問符を頭の中に山ほど浮かべつつ、渡された袋の封を開けて中を見る。
「…ええと…どういうことなの…?」
二回目。
同じ言葉を口にしてしまう程度に、臨也にとっては意味が分からないものが入っていた。
幽が出演していた映画だかドラマだかの…興味があるわけではなかったので咄嗟に題名は出てこなかった…ストラップ。しかも2個。
意味わかんないんですけど。
明らかにペアを意識させる色違いのそれらに、臨也は眉根を寄せてしばし真剣に考え込んでしまったほどだった。

――あーもう、今日は一体何なのさ。

思わず、意味分かんない!と叫びたくなる。
やたらと誕生日を祝う言葉をかけられるなんて今までなかったことで、さらにプレゼントらしきもの。しかも、そのプレゼントは何だか微妙に自分宛だと言い切れない雰囲気を感じるのはどういうわけなのか。今日は一体なんなのだと思ってしまうのも仕方ないというものだった。

「あー…何か本気で分かんないんだけど、とりあえず、一回帰ろう」

考えたところで答えに行き着けないのはこの2時間弱の間で分かりきっていて、本日何度目かの思考放棄を決めた臨也は疲れた声で呟く。
包帯その他と高級プリンと今のこれと。
基本的に身軽さを確保したい臨也としては荷物が多くなりすぎである。
何かあれば放り出さないわけにいかないが、それはもらった相手に失礼というものだろう。誕生日を覚えていてくれたことはいくら捻くれている臨也だって嬉しいことは嬉しいし、プレゼントをもらえれば悪い気はしないのだから。
「…タクシー呼ぶか」
これを持って電車に乗って帰るのは何だか余計なトラブルにでも巻き込まれそうで面倒だし。
そう考え、臨也は一旦新宿へと戻るために携帯電話をポケットから取り出した。



☆☆☆



事務所のあるマンションに着くより少し手前でタクシーから降り、のんびりと道を歩いていく。
そうして、すれ違う人の波の中を淀みなく進み、もう少しでマンションに着こうかという頃、携帯が着信を告げた。
また九十九屋かと思い苛立ち半分に画面を覗く臨也の目の映ったのは、波江からの業務連絡だった。
頼んでおいた仕事の結果と、少し早いが帰ることにしたという内容のそれ。さらにそこにさっさと帰ってきなさいね、と普段はない波江らしくもない文面が添えられていて、臨也は困惑を隠さずため息を吐いた。
どうせもう帰ってしまっているだろうと判断して了解の返事だけ送って、またため息。
本当に、一体今日はなんだというのだ。

「波江さんまでいつもと少しだけだけど違うとか、何だか不安になってくるんだけど…って、あれって…?」

ようやく見えてきたマンションの入り口。
そのすぐ脇に佇む姿が見えた。
金髪にバーテン服にサングラス。煙草を銜えぼんやりと空を見上げるその姿は、よく見知った人物のそれだった。
池袋でそれとなく探してみたものの見つからなかった姿を思いがけずこんなところで見つけ出して、知らず気分が高揚する。自然と早くなる歩みに気付くこともなく、臨也は彼へと近づいていった。

「シズちゃん」
「あ…?…よう、ノミ蟲」

気付いた静雄が、煙草を携帯灰皿に押し付けてこちらを見る。
暴れる気配はなく、どこかソワソワとした様子を見せている男に首を傾げ、少しだけ考えて。
臨也は、ああ、と唐突に納得した。
今日感じ続けた違和感の根本的な原因が、ようやく判明した。
つまり、どういうわけかは知らないが今日静雄がここにいることを彼らは知っていたわけだ。
多すぎるプリンも、頑張れという言葉も、その他のすべても、その上でのもの。よくよく考えれば、早く帰るように仕向けられていた節さえあるのだから、これは彼らなりの誕生日プレゼントであるのかもしれない。
自分の気持ちがばれているのは知っていたが、まさかこんなサプライズが用意されていようとはさすがの自分も思いつかなかった。
苦笑を漏らして、臨也は静雄に視線を合わせ小首を傾げて見せた。

「で、君はここに何しに来たわけ?」
「あー、その、だな…」

問えば、しどろもどろに答えようとする静雄。

「今日、お前の誕生日なんだってな」
「まぁね」
「何でか最近会うヤツ会うヤツみんな手前の誕生日が4日だって言いやがるからよ…その、さすがに覚えちまったって言うか、いやそもそも俺が手前を祝うとか変な感じなんだけどな?だけど、その、まあたまになら、そういうのも悪くはねぇんじゃねぇかとか思ったりしたわけで」
動揺を隠すかのように饒舌な静雄を、臨也は呆れたように見上げる。
もっとも、内心では嬉しさが膨れ上がっていたけれど。
静雄の気持ちが誰に向けられているかくらい、臨也はとっくに知っていた。
それでも告白しないのは、自分からは絶対に言わないと決めているというのもあるにはあるが、結局のところ、長く喧嘩ばかりしていたせいで今更そんなことを言い出せないだけのこと。
それでも、静雄が告白するまではと知らない振りを続ける気の臨也は、心の内を見せないように努めて素っ気ない態度をとる。

「つまり、君は俺の誕生日を祝いに来てくれたわけ?」
「お、おう…そういうことになる、な」
「ふぅん、まあそういうことなら上がっていきなよ。プリン食べきれないほどもらったし君にもおすそ分けしてあげる」
「わ、わわ、分かった」

どもり過ぎだろ。
慌てて頷く静雄に苦笑して。
臨也はマンションの中に入ろうと歩き出したが、手首を掴まれその足はすぐに止まった。

「…なに?」
「い、いや、あのな、俺は手前に、ずっと前から言いたいことと言わなきゃなんねぇことがあって」
「うん?」
「まず、これだけは先に言っておきたいんだけどよ」
「何?」

煮え切らない静雄だが、見つめてくる目は真剣そのもので。
その真剣さに感化される自分を自覚しつつも、臨也も真剣な声で応じる。
じっと自分を見る淡い色の瞳と見つめ合うこと数秒。
覚悟を決めるかのように一回深く呼吸した男が、ゆっくりと口を開いた。

「臨也」

静雄の声が、今まで聞いたこともないような優しい音で自分の名前を紡ぐ。
無意識に、ふるりと身体が震えた。
ああ、この声を聞けただけで今日はもう充分幸せだ。
そう思えてしまうほどだった。

「誕生日、おめでとう」

改まって言われた言葉は、すとんと胸のうちに落ちてきて。
そのままじわりと広がる暖かな感情に不覚にも感動してしまって。
臨也は震えを抑えきれない声で小さく、ありがとう、と口にすることしかできなかった。












※尻切れトンボだけどここまで!臨也さん誕生日おめでとうございます!!