四月一日の嘘つき
※2013エイプリルフール。来神シズ→イザ。仲はそんなに悪くないからパラレルだと思います。

















「シズちゃん、キスしようか?」
唐突に聞こえたその言葉に、静雄はゲーム機のコントローラーを操る手をぴたりと止めた。
言われた言葉の意味をすぐに把握できず、とりあえず訝しげに振り向いた先の相手はといえば、携帯ゲーム機を覗き込んで静雄を見てもいない。少し待ってみても相手――臨也の視線は小さな画面に注がれたまま、ちらりとも寄越されない。仕方なく、何を言われたか脳内で数回再生して、反芻して、ようやく飲み込んで。
「はぁ!?」
ようやく臨也の言った言葉を理解した静雄が叫ぶ。
「お、おま、なに言ってっ!?」
慌てふためく彼に、臨也はくっと喉を鳴らした。興味なさそうな無表情から一転、悪戯が成功した子供の顔が覗く。
「嘘だよ、嘘」
「あ?」
「今日は4月1日、エイプリルフールだよシズちゃん?」
まだ午前中だし?
そう事も無げに言う彼にきょとんとして、それからカレンダーを見て。静雄は唖然とした顔でもう一度臨也へと目を戻す。
確かに今日は4月1日だった。

「…手前、言っていい嘘と悪い嘘があるだろうが」
「あれ?本気にしたんだ?」
「っ!」
「あはは、顔真っ赤。なぁに、俺とちゅーしてみたかった?」
「んな、わけねぇだろっ!」

反射的に叫んだ静雄に、臨也はニヤニヤ笑を崩さない。
まさか自分が密かに抱える想いに気づいてからかってるんじゃねぇだろうなと勘ぐりたくなるほど、余裕の表情だ。くそ、人の気も知らないで。そう思いながら睨みつける。
と、ふいに臨也が身を乗り出してきた。

「っ!?」

ちょんと唇に触れた感触に、静雄は目を見開く。
触れるだけの軽いキス。
だが、静雄に衝撃を与えるにはそれで十分だった。
さっさと唇を離してくすくすと笑う男は楽しげで腹立たしい。
「シズちゃんのファーストキス、ごちそうさまでした」
ますます真っ赤だねぇなんてのんびり口にすると、臨也はゲーム画面に視線を戻した。
その何事もなかったかのような態度がまた腹立たしい。っていうか、何でファーストキスだって知ってんだ。それ以前にどういうつもりなんだ。そんな思考がぐるぐる頭の中を巡ってまとまらない。
「ってめ、嘘じゃなかったのかよっ」
「それが嘘だってことだよシズちゃん」
君は馬鹿だねぇと言わんばかりの表情でもう一度静雄を見た臨也は、それから数秒か何事か思案するような顔をして。
今度は何を思いついたのか目を細めて、身構える静雄に向かって柔らかな声――というより猫なで声に近かったが――を出す。

「ねぇシズちゃん、俺と付き合おっか?」

そう言った臨也の顔は相変わらずニヤニヤ笑いを消していなくて。
静雄は嘘か本気か見抜けず舌打ちする。
直感で動く静雄は駆け引きは苦手だというのに、遊ぶかのようにそれを仕掛けてくる相手に苛立ちを感じる。

――ああもうごちゃごちゃ考えるの面倒くせぇ。

それが結論。
静雄は直感の告げるまま、臨也に向かって手を伸ばした。












※このあと静雄にチューぶちかまされるとは予想してなくて取り繕えず真っ赤になる臨也さん。