風邪っぴきと年越し
※2010年大晦日。即席小ネタ。











『臨也が風邪引いたみたいなんだよね』
そう、新羅から聞いたのは今朝方のことだった。
最初は無視しようと思っていた。
ギリギリまで出来なかった大掃除もしたかったし、そもそも臨也を見舞ってやる理由もないのだ。
そう思っていたのに。

「おい、大人しくしてろ」

結局、静雄は臨也のマンションにいた。
ぼんやりとソファに座っていた臨也に粥を作って食べさせ、薬を飲ませて。
ようやく片づけも終わらせた。
やれやれと思いながらリビングに戻った静雄は、かけてやった毛布をかぶったままパソコンを操作している臨也を見つけて――そして、先の科白を口にしたのである。

「平気」
「嘘つけ」
「平気だよ」
「………」
「…いや、シズちゃん。別に俺ホントに平気だし、帰っていいよ?」

熱でぼんやりとしているのがはっきりと分かる顔で言われても、はいそうですかと帰るわけにはいかないだろう。
この馬鹿が、と呟いて。静雄はずかずかと臨也に近づき、その額に手をやった。
すっげぇ熱いじゃねぇか。
薬があまり効いていないのか。臨也の熱は相当高い。

「とにかく大人しくしてろ。手前それでなくても風邪引くと長引くだろうが」
「……別に、平気だし」

ああクソ。埒があかねぇ。
ガシガシと頭を掻いて、静雄は息を吐き出した。
言うことを聞かないなら、実力行使だ。
そう決めて。静雄は手を伸ばして臨也を抱き上げた。








なんで、シズちゃんがいるんだろう。
熱のせいでろくに働いていない頭でそう考えながら、臨也はぼんやりと静雄の顔を眺めていた。
昨日の夕方頃から調子が悪くて新羅のところに行ったら風邪だと言われて。
そのあとは自宅で大人しくしていたのだ。
いつの間にか寝てしまって、起きたら静雄がいるなど想像もしていなかった。
しかも何故か甲斐甲斐しく世話を焼かれて、今は毛布に包まれてリビングのソファで静雄の腕の中。
どんな状況なんだ一体?

「シズちゃん、帰らなくていいの?」

問えば、気にするなと言われてしまう。
でも、と口にする前にぎゅうっと抱き締める腕に力が込められて。
臨也はそれ以上何かを言うのは諦めた。
だるいし眠いし、静雄がいいと言っているのだし、もう好きにさせておこう。
そう考えて、目を閉じる。

「シズちゃん、もうすぐ今年も終わりだねぇ」
「そうだな」
「ここは来年もよろしくとか言っておくべきかな…?」
「よろしくしたくねぇからいらねぇよ」
「ひっどいなぁ…」

くたりと力が抜けた体はまるで言うことを聞かない。
はふと熱い息を吐き出して重い瞼を開こうとする臨也に、静雄が苦笑する気配があった。
彼は臨也の汗で額に張り付いた髪を払って、そして言う。

「もう寝ちまえ。こうしててやるからよ」

その声は思わぬ甘さを含んでいて。
…一緒に年越しとか、なんだかなぁ…。
風邪のせいで予想外な事態になってしまった、と思いながらも。
臨也は小さくまあいいかと呟いて僅かに口の端を吊り上げた。












※まんざらでもない臨也さん。