Merry Christmas!
※2010年クリスマス企画。通常シズイザ。











12月25日PM11時――池袋。


クリスマスといえば、やはりケーキだろうか。
そんなことを考えながら、臨也はのんびりと街を歩いていた。
立て込んでいた仕事にようやくケリをつけたものの、結局静雄とイブもクリスマスも過ごせなかった臨也は不満そうに口を尖らせる。

「シズちゃんプレゼント受け取ってくれたかなぁ」

会う余裕すらなくて、昼間忙しすぎるスケジュールのわずかな間をぬって静雄のアパート――もちろん不法侵入だ――のテーブルの上に置いてきたプレゼントは無事リボンを解いてもらえただろうか。
はふ、と息を吐いて。
臨也は、コンビニでケーキっぽいものでも買って帰ろうかなぁと呟く。
ようやく一息つけるのだ。それくらいは世間一般のお祭り事に便乗してもいいだろう。
そう思って、向かう方向を駅から変更しようとして――。
臨也はそこでピタリと足を止めた。

「やあ、シズちゃん」

相変わらず元気そうだね、と挨拶する臨也の目の前には静雄がいて。
不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。
いつものように物を投げてこないことを不審に思い首を捻る臨也に、静雄は苛立ちを交えた強い視線を向けている。

「臨也」

低い声で名前を呼ばれて。
臨也は目を瞬かせて、首を傾げた。
池袋で会った時の第一声が自分の名前であるとは珍しい。と言うか、今までそんなことがあっただろうか?よくて『ノミ蟲』くらいではなかったろうか?そんなことを考えつつ、

「何かなシズちゃん?」

そう答える臨也に。
静雄は眉間の皺を深くして大きく溜息をついて、それから自分のポケットに手を突っ込む。
なんだ?と思う間もなく、べちりと顔面に何かが当たった。
…投げたの見えなかった…。そう唸り、臨也は自分の顔に当たって路面に転がり落ちたものを見る。

「…袋?」

それは、可愛らしいリボンのついた小さな袋だった。
ひょいと拾い上げて静雄に視線を戻すと、相変わらず不機嫌そうな顔。

「手前が俺のいねぇ間に来るからよぉ。おかげでもう少しで渡し損ねるところだったじゃねぇか」

……。つまり、これはクリスマスプレゼントなのか。っていうか、今のは渡したことになるのか?そう考えはしたが何も言わない臨也に、静雄はさらに言葉を続ける。

「大体俺は夜仕事が終わってから来るもんだとばかり思ってたってのによぉ…不法侵入のあげく書き置きもなしにプレゼントだけ放置とか、どういう了見だ?ああ?」
「………」

なにこれ、デレ?デレなのか?
目の前の静雄の、明らかに拗ねた態度が信じられない。

「手前が来ると思ってこっちはケーキまで買ったんだぞ?…まあ、売れ残りのやつだけどよ」

ブツブツと言いたいことだけ言って。
それから、静雄はくるりと向きを変えた。
「シズちゃん?」
突然方向転換した彼に、臨也は意味が分からずただ唖然と見ているだけで。
すると、

「で?来るのか?来ねぇのか?どっちなんだ」
「………」

顔だけ振り返った静雄がそう聞いてくる。
どうやら今までのは遠回しのお誘いであったらしい。
そう、ようやく臨也にも理解できた。
静雄が素直に自分を家に誘うことなどないのでむしろこの方が“らしい”かと苦笑して。
臨也は仕方ないなぁと呟くように言った。

「ひとりぼっちでかわいそうなシズちゃんの為に、特別にこの素敵で無敵な情報屋さんがお付き合いしてあげようじゃないか」
「…ちっ」
言い方が気にいらねぇとか低く文句を言うが、静雄がそれ以上言い返すことはなく。
「おら、行くぞノミ蟲」
さっさとしろ、と催促までされる。
手をこそ差し出さないが、先に歩き出すでもなく待っていてくれる気らしいその姿に臨也は目を丸くした。
どうやら、今日の静雄は臨也に対してずいぶん大らかであるらしい。
クリスマスの奇跡か?いや神様なんて信じないけどさ、と心の中で呟いて。

――だけど、うん。悪くない。

そう考えて、小さな笑みを浮かべた臨也は、静雄に向かって数歩歩き、腕を伸ばしてその手に自分の手を重ねたのだった。












※お付き合いありがとうございました!