カウントダウン 4
※2010年クリスマス企画。『WonderWorld』(吸血鬼×人狼)設定。











「あれ?シズちゃん、私服なんて珍しいね」

そう声をかけられて。
静雄は、なんでこんなとこにいやがる、と言おうと振り返って。
硬直した。

「…?…シズちゃん?」

いや、俺の私服がどうとかって話じゃねぇだろ。
そう思う静雄の目の前。
いつもと真逆の、真っ白なコートに身を包んだ男が立っていた。
臨也のイメージは黒であるためか――ついでに静雄もバーテン服でないせいで――周りも気付いていないらしい。
立ち止まった彼らを迷惑そうに避けて歩くだけの通行人の様子は少し新鮮な感じだった。

「手前、なんでそんな服着てんだ?」
「あれ?似合わない?」
「いや、似合うとか似合わないとかじゃなくてよ…」
「変装じゃないよ。強いて言うなら、気分転換さ」
「………」

とてもそれだけが理由とは思えない。
この目の前の人狼は、裏社会でもそれなりに知られた存在だ。またやばいことに首を突っ込んで追われてるんじゃないだろうな、と思ったのが伝わったのだろう。違うよ、と首が振られた。

「今日は買い物さ。俺がいつもの格好でプレゼントなんて買ってると目立つからね。それと気分転換」
「……そうかよ」

なら俺と似たようなものか。そう呟く。

「シズちゃんは幽くんにかい?」
「あ?」
「だから、君もプレゼント買いにきたんだろ?吸血鬼とクリスマスってなんだか変な取り合わせっぽいけど」
「それを言うなら狼男もだろうが」
「まあねぇ。でもどうせならイベントごとには便乗したいじゃないか」
「手前は妹にか」
「うん。あとはシズちゃんにもね」
「は?俺?」

おや?と臨也は首を傾げて、問うた。

「君は俺にはくれないつもりだったのかい?」

少し、本当に少し。臨也の声のトーンが下がる。
それを聞いて、静雄はいやそうじゃねぇけどよと言葉を濁して、

「だってよ、お前がくれるとは思わなかったんだよ」

いつだって自分ばかりが相手のことを想っているのだと、そう思っていた。だから、臨也の言葉は静雄には予想もしていないことだったのだ。

「失礼だなぁ。俺が恋人へのクリスマスプレゼントを忘れる男に見えるの?」
「………」
そんな失礼な奴にはもう血をあげないよ、なんて言ってすねた表情をする臨也が本気ではないことは分かっている。
なんだかんだ言って、この人狼は静雄に甘いのだ。最近、それがようやく分かるようになってきた。

「シズちゃん?聞いてる?」
「おう。手前が俺の予想よりずっと俺のことが好きだって事は分かったぜ」
「………なんだか、それは分かってくれなくて良かった気がする」

むうと口を尖らせて不満そうな顔をしてみせる臨也にくっと笑って。
静雄は「そろそろ行くか」と声をかけた。
「行くって…どこへだい?」
「手前も俺もプレゼント選びに来たんだろうが。センスは手前のが良いからな、特別に選ばせてやるよ」
「なにそれ」

今狼のしっぽと耳が出ていたなら、絶対に不機嫌な時の動きを見せていただろう。そう考えて、ああ触りてぇなと思う――さすがに静雄も人前でそんなことを強要したりはしないが。
臨也、と耳の良い相手にだけ聞こえるように名を呼ぶと。
臨也は溜息をつく仕草をして、静雄に向かって苦笑した。

「ま、とりあえず一緒に行くだけ行こうか?」

そう言って差し出された手に。
静雄は一瞬迷ってから、自分の手を重ねる。
それに嬉しそうに笑った臨也に、静雄はパタパタ振られるしっぽの幻影を見た気がした。












※4日前。