悪魔×魔術師 クリスマス編
※2012クリスマスの2。相方への捧げ物のおすそ分け。
蔵出しするか否か迷って止めたやつの番外なのでいろいろ説明不足。あと今回魔術関係ない…←

















12月25日。
忙しい忙しいと文句を言いつつも無事に仕事を片付けたらしい悪魔――比喩ではない――が帰宅したのは、その日の夕方のことだった。

「おかえりシズちゃん」
「おー…ったく、今日くらいはオフにして欲しかったぜ」
「はは、お疲れ様」

そういえば、昨日何か用事があるとか言っていたのに朝方に急に呼び出されて慌てて出て行ったんだっけ。ほぼ2日ずっと仕事とかやっぱり悪魔でも面倒とか思ったりするんだろうか。

「ちゃんと飯食ってただろうな?」
「…一応?」

問われて答えれば、呆れたようにため息がつかれる。

「手前はホントどうしようもねぇな」
「一応…朝は食べたし、そりゃ夜はついうっかり忘れたけど…」
「ちゃんと食わねぇとまた倒れるぞ」
「…分かったよ」

君は俺の親か何かかと言ってやりたくなったけど、考えてみたら保護者のようなものだったわけだからある意味ではそうなのかもしれない。
俺とこの悪魔――シズちゃんの関係は複雑だ。召喚した当初まだ子供だった俺にとってシズちゃんは使い魔であると同時に(何故か)保護者だった。それは確かだ。でも、その後シズちゃんが俺の望みを叶えて、契約が完了したことで立場は逆転した。だから、本来の現在の関係は、たぶん主と下僕?みたいなものなのだと思う。…思う、はずなんだけど。
どういうわけか、今の俺はこの悪魔の世間一般で言うところの恋人…?の立場にあるらしい。らしいというのは、それが発覚したのがほんの2ヶ月前のことで、正直なんでこいつがそんなことを望んだのか未だに俺には理解できないからだ。
願いを叶えた結果元の世界にいられなくなった俺を連れてこの世界にやってきたシズちゃんは、俺に側にいること以外、何も望みはしなかった。もともと興味のあること以外全部がどうでもいい性格の俺はそのことについて特に何も言わなかったんだけど。いや、だってまさか元使い魔の中で自分がそんな位置付けになってるなんて普通思いもしないじゃないか。
……別に、それが嫌なわけじゃないし、むしろ俺は彼が好きだから本人がいいって言うんなら歓迎できる状況ではあるんだけど。でも、そこに至った理由を是非とも教えて欲しいものである。

「臨也?」
「あ、うん。何?」
気付けば、うっかり思考の海に沈んでいた俺をシズちゃんが不思議そうな顔で覗き込んでいた。
「どうかしたか?」
「ううん、何でもない」

首を振って答えた俺に、そうかと特に気にした風でもなく応じた相手は小さく伸びをする。
どうやら結構疲れているらしい。そう察して、休むようにソファを指差してやるのだが。
はぁ、と息を吐いたシズちゃんが腰を下ろす先はフローリングの床だった。
いやだから何で床に座るの。ソファがあるんだからそっちに座ればいいだろ。…最近床に座るのがプチブームであるらしい悪魔のために床はピカピカにしてあるけど、でもそのブームは俺には理解できそうにないんだけど?

「とりあえず、まず飯作るかそれとも風呂に入るか…」
「お腹減ってないならまずは風呂に入ったら?」
呟くように言う彼に、俺はため息をついて提案する。
「そうだなぁ」
そうするかと応じて。
そこで、シズちゃんは何かを思い出したように俺を見た。

「っと、その前に」
「?」
「臨也、ちょっとこっちにこい」
「何?」

呼ばれてよく分からないまま側に寄れば、手首を捕まれて。
そのまま、身体を反転されて、ぽすんとシズちゃんの腕の中に収められてしまう。
所謂膝抱っこ。膝の上に座らされて後ろから抱かれる形だ。
別にそれ自体は珍しいことではないので特に抵抗はしないで素直に身体を預ければ。
ぎゅっと軽く腕の力が込められて、煙草の匂いがふわりと香ってくるのに何とはなしに安堵した。
昔は嫌いだったのにすっかり馴染んでしまった独特の香りは、俺の中では彼の匂いとして認識されていて嗅げば無条件に安心してしまうまでになっている。
でも、いつもだったらそのままキスのひとつもしてくるのに、今はそれがなくて。

「…しずちゃん?」

俺を抱え込んで何やら探すようにごそごそとするシズちゃんに、首を傾げる。
一体何なんだろうか。
そう思いながら待つことしばし。ようやく探し物を見つけたのか、シズちゃんが俺の前に手を出してきた。
「手ぇ出せ」と命令されて素直に手のひらを差し出すと、ころりと転がってくる物。

「ほらよ」
「…なに、これ」

手の中に落とされたのは、小さな四角いもの。
中身は箱だろうか。きれいな紙に包まれて、リボンがかけられたそれは、小さいくせに妙に存在感があった。

「クリスマスプレゼントだ」
「くりすます?」
「クリスマス」
「…なにそれ?」
「………まあ、祝い事だな」

考えてみたら悪魔の俺がクリスマスとか…、と呟くシズちゃんに首を傾げてみるけど、それに対する答えは無く。
よくは分からないけれど、これが自分に与えられたものだということだけは了解できたので適当に紙を破いて中身を取り出してみる。

「手前なぁ…もう少し丁寧に開けろよ」
「やだ、面倒だし」
「…手前ぇ」

上がる抗議の声は無視して、何だかちょっと変わった箱の蓋を開けると、その真ん中に鎮座したものが目に入った。
小さなそれは、さすがの俺でも何だかくらい分かるもので。
どう反応するのが正解なのか、すごく悩む。

「………」
「………」
「…シズちゃん」
「……おう」
「これ、俺はどう解釈すればいいのかなぁ?」
「………好きにしろ」

肩越しに振り返った悪魔は、それはもう真っ赤な顔でそっぽを向いている。
…本当に、悪魔らしくない悪魔だ。
まあいいやと茹蛸悪魔は放置して、小箱から取り出した銀色のわっかをしげしげと眺めてみることにする。
細かい細工の施されたそれは派手ではないが上品な美しさを見せていて、悪くない。…悪くないが、どうにも呪物くさい気配がするのはどういうわけなんだろうか。

「なんていうか、呪いっぽい…?」
「あー…まあ、呪いだからな」

おい、呪いかよ。呪い付きかよ。プレゼントで遣すようなものじゃないだろ、それ。
所謂指輪の形の銀色のわっかは見た目では分からないが妙な気配を感じさせていて、その気配の正体を探ろうとするけど、認識阻害系の術に阻まれてしまった。もう少し真剣に見れば分かるんだろうけど、うっかり力加減を間違うとかけられた呪いそのものを砕いてしまいかねない。

――まあいいか。

そう思って、俺は小さく息を吐き出した。
気配からして、別に悪いものではないようだし。どうせ俺はシズちゃんのものだし、いまさらひとつ何かが増えたところで何の問題もない。
そんなふうに思って、俺はころりと手の中で指輪を転がす。

「ちょっと貸せ」
「え?」

ひょいと転がしていたそれが摘まれて、視線を動かすとシズちゃんと目が合った。
なんだろうか、と思っている間に手を取られて、するりと指に通される。…ぴったりとか、一体いつサイズ測ったのさシズちゃん。
違和感なくぴたりとはまるそれは、最初からそこにあったみたいに馴染んでいて。黙ったまま、ただ指に納まった銀色を見つめていると、改めて俺を抱きこんだ男が、耳元に唇を寄せて囁くように問うてきた。

「嫌か?」

別に、嫌じゃない。
それを示すために小さく首を振る。と、ちゅっとリップ音。
痛くない程度に強く抱き締める腕がシズちゃんの感情を物語っているようで、ほとんど無意識に苦笑がもれた。
別に、君の独占欲がすごくすごく強いことくらい知っているし、目に見える形にしたがってることだって知ってる。何度俺が俺の所有権が彼にしかないことを口にしても、不安が拭えないことだって知ってる。…いまさら、俺がシズちゃん以外を選ぶことなんてありえないのに。

「俺には君だけだって、いい加減覚えて欲しいんだけど」
「…分かってる、つもりなんだけどな」
「どうしようもないねぇ、君は」
「煩ぇ」

普段は俺の言葉なんて無視して好き勝手振舞うような奴なのに、こういうところだけ、弱い。
そんなところも含めて好きなんだと、口にする気はないけれど。でも、そんな彼が愛しいから。だから、俺はシズちゃん以外を選ぶ気はないのだ。

「大好きだよ」

ふっと力を抜いて全体重を預けて、小さく、彼にだけ聞こえるように囁けば。
背後の悪魔が一瞬息を呑んだのが分かった。
突然の告白に動揺しているのが気配で分かって、俺はくすくすと笑って視線を自分の手へと持っていく。

――本当に、悪魔らしくない悪魔だねぇ。

あと少し待って返事が返ってこないようなら、今度は好きって言ってと強請ってみようか。そうすれば、さらに動揺した姿が見られることだろう。
それはそれで楽しそうだ、と。
そう思った俺は、密着した身体に伝わる気配を探りつつ、左手の薬指にはまった銀色を眺めて目を細めた。












※このあとは風呂も飯もそっちのけでいちゃいちゃするわけです。はい。