一日遅れの誕生祝い
※2011年臨誕3。一日遅れの誕生日。『けもみみパラレル』設定で『ケモノの王様』より後の話。

















もう寝ようかなぁ、と考えた臨也は黒くて長い尻尾を揺らして小さく伸びをした。
眠くはないし明日も休みだが、することもないのだから寝てしまうべきだろう。

「?…インターホン?」

聞こえた音に、ぴくりと耳が動く。
だが、こんな時間に鳴るだろうか。
もう2時過ぎてるんだけど、と首を捻って、とりあえず誰かを確認すべく移動して。

「――シズちゃん?」

見えた姿に、目を瞠った。
見間違いようもない、茶色の耳と尻尾の狼族。
なんでこんな時間に?と不思議に思いながら、臨也は静雄に呼びかける。

「シズちゃん、どうしたの?」
『いいから開けろ』

不機嫌な声だ。
そう思いつつ、エントランスの自動ドアを開けてやって。
それから、臨也は首を傾げた。
ここに静雄が来ることは珍しくないし、泊まることもしょっちゅうだ。
だが、今までこんな深夜に押しかけてきたことはない。

「…なんの用だろ?」

静雄を出迎えるために玄関へ向かいながら呟いて、鍵を開けて待つことしばし。
鍵が開いていることを疑いもせずにドアを開けた静雄に、臨也はとりあえず笑みを浮かべて挨拶した。
「やあシズちゃん、こんばんは。一体――わわっ」
だというのに。
一切の返事もなくいきなりがしりと抱き寄せられて慌てるはめになる。
無意識に押し返そうとして。だが、抱き込まれてしまってはもはや逃げようがなかった。

「シズちゃんどうしたのさ…?」
首を僅かに傾げて問う。
すると、意外な答えが返ってきた。

「手前昨日誕生日だったんだろ」

きょとんとして、それから何度か瞬いて。
臨也は静雄に言われた言葉をゆっくり反芻して。
それから、ああそういうことかと頷く。

「……ああ、うん。そう言われればそうだったかも…?」
「…何で言わねぇんだよ。そういう大事なこと」
「え、あ…いや、そんなに大事なことじゃないし…?」
「大事なことだろうが。くそっ」

唸って、腕の力を強くする狼族に臨也は小さく痛いと文句を言う。
悪ぃと言って力を弱める辺り、無意識の行動であったらしい。

「ええ、と…参考までに聞くけど、なんでシズちゃんが俺の誕生日知ってるのかな?」
「あの手前の従兄弟の…つくもや…だったか。あいつがついさっき電話してきて、どうせ誕生日なんて知らないんだろう?なんてすっげぇ馬鹿にした感じの声で言いやがったんだよ」
「………そう」

九十九屋余計なことしやがって。どうせあの愉快犯のことだ。静雄をからかうのと同時に臨也を困らせるためにこんなことをしでかしてくれたのだろう。
迷惑な男だ、と耳を伏せ唸ってから。
臨也は静雄の背に手を回した。

「シズちゃん、九十九屋の言葉なんて気にしなくていいよ。あいつのことだから――」
「でも、恋人の誕生日も知らねぇとか、酷いだろうが」
「あー…俺は、あんまりそう思わないけど…」

困った。思ったより落ち込んでいるらしい。
どうすれば静雄を浮上させられるのか。
困惑の調子でゆらゆらと尻尾を揺らして、臨也は考え込む。
が、いい方法はあまり思いつかなかった。

「シズちゃん、ホント九十九屋は君と俺の反応で遊んでるだけだから気にしなくていいよ?」
「でも、ちゃんとその日に言いたかったんだよ、おめでとうって」
「ああ、うん。そっか」

そういうものか。と考えて、まあシズちゃんって真面目で律儀だもんなぁと呟いて。
臨也は静雄の背を撫でて、言う。

「ねぇ、遅くてもいいから言ってよ。聞きたい」

じっと目を見つめると、静雄は逡巡して、それから、臨也の望む言葉を口にしてくれた。

「……臨也、誕生日おめでとう」
「ありがと」

ぎゅっと一回抱きしめてやってから、臨也はくすりと笑みを浮かべる。
どうやら自分は思ったよりもずっと、静雄が誕生日を知ってすぐに来てくれたということが嬉しいらしいと自覚して。
自覚した瞬間から、一気に熱が加速していた。

「ねぇシズちゃん」
「…なんだ」
「君、俺の誕生日を祝いに来たんだろ?」
「…一日遅れたけどな」
「ん。でも嬉しい。ありがとシズちゃん」
「お、おう」

照れつつ頷く静雄を見つめたまま、臨也は笑みを柔らかなものに変えて、甘い声を出す。

「ねぇ、ついでにさ」
「ん?なんだ?」
「プレゼントも頂戴?」
「…さっき知ったばかりだから、なんも持ってねぇよ」
「うん。でも、俺の欲しいものはシズちゃんがいれば足りるからさ」
「?」

自分の言葉にどういうことだと首を傾げる狼を愛しげに見上げて。
臨也は首の角度を僅かに傾けて、そして、素直に欲しいものを強請った。

「シズちゃんを俺に頂戴?」
「いざや?」
驚きに目が見開かれるのを心地よい気分で見つめながら。
「俺のこと、一日遅れた分いっぱい愛して、気持ちよくして?」
そう言ってさらに誘惑する。
ますます見開かれた色素の薄い瞳は、驚きに満ちながらもゆっくりと欲望の色を見せ始めていた。
「…いい、のか?」
「うん。明日…っていうか今日だけど、休みだし」

くるると喉を鳴らして頭を擦り寄せる臨也に、静雄がごくりと喉を鳴らす。
いいんだな?と今度は目で問う静雄に頷いて。
臨也は静雄の手をとって、指先に噛み付いて舌を這わせた。

「シズちゃんが欲しい、よ」

頂戴と再度強請れば、静雄は耐え切れないというように臨也を抱き上げて、そのまま肩に担ぎ早足に寝室を目指す。
落ちないように――もちろん静雄が落とすとは思わないが――しがみついた臨也は、静雄の後ろで嬉しげに揺れるふさふさの尻尾を見つけて。
やはり嬉しそうに目を細めて喉を鳴らしたのだった。












※一日遅れでも甘い臨誕なけもみみーずの話。