おおかみさんと記念日
※2011年臨誕2。『おおかみさんの話』設定。

















5月3日、夜。
いつものように泊まっていくと言い出した臨也のための布団を用意しながら、俺は小さく唸った。

「…あー…どうすっか」
「なにがー?」

ローテーブル…っていうかちゃぶ台の前に座って見上げてくる臨也。
それを横目で見ながら、布団を敷き終えて。
それから、思い切って切り出す。

「臨也、お前明日もここにいるのか?」
「うん、シズちゃん明日休みでしょ?だからそのつもりー」

だめ?と首を傾げる臨也は、凶悪に可愛い。
ああちくしょう、どうしよう。
今すぐ抱きしめたくて、でもそんなことできるわけもない俺は、ぐっと手を握りこむことで衝動を堪えた。
明日の予定を聞くだけでこれとか、さすがにやばい。

「?…シズちゃん?」

はあっと溜息をついて、敷いた布団の側に座り込んで。
俺は臨也から微妙に視線を逸らしつつ、口を開く。

「明日、お前誕生日だろ」
「うん。そうだよ?」
「俺と、一緒でいいのかよ…?」
「なんで?俺、シズちゃんと一緒がいいよ?」
「そ、そうか…いや、ならいいんだけどよ」

いやいやいや、勘違いするなよ俺。こいつのはそういう意味じゃない!単に俺に一番懐いてるからだからな!!
深呼吸してなんとか気を落ち着けて、
「なんか、して欲しいことってあるか?」
そう問うと、臨也は一瞬虚を突かれたような表情をして、それから考える。
そういう漠然とした問いかけはちょっと困るなぁ…とか呟いているみたいだが、そりゃどういう意味だ。

「臨也?」
「シズちゃんって、ホント鈍いよねぇ」
「あ?」
「そんなところも好きだけどさぁ」

苦笑した臨也はその笑みをふんわりとしたものに変えて、ついつい見惚れてしまう。
なんでこいつはこんなに可愛いんだ…。と思いながら、ふと見た時計は23時53分。

「…あとちょっとで14歳か」
「そうだよ、またシズちゃんと9歳差になるね」
「…大して変わらねぇだろ」
「10年と9年じゃ全然違うもん」

むうっと眉間に皺を寄せて、臨也は俺の目の前に座り直して、シズちゃんは全然わかってない!とか文句を言っていて。
俺はムキになって眉を吊り上げるその顔をじっくり観察させてもらった。
まだ丸みのある頬も、柔らかそうな唇も。意志の強い特徴的な色合いの瞳も。
すべて、俺を惹きつけてやまない。
埋めがたい年の差が歯痒いのは俺も同じだといったら、こいつはどういう反応をするんだろうか。
好きだと言ったら、どういう――。
そこまで考えて、いや止めようと首を振った。考えても仕方ないことだ。
ああ、そうこういってる間にあと1分切ったか…。
時計を横目で見ながら、臨也の方へと身を少し屈める。
0時丁度。

「臨也」
「ん、なに?」
「誕生日おめでとう」

囁くように間近の赤い瞳を見つめながら言えば。
一瞬の間の後、臨也は俺の首に抱きついてきた。

「シズちゃんありがと」

そう顔を見せないための体勢で言う臨也だが、残念ながらその思惑は失敗だ。
何故なら、臨也は首まで真っ赤になっている。これじゃ、顔を隠したって無駄だろ。
くすくす笑って、だけど指摘はしないでやって。
俺は臨也の薄い背を撫でながら、言う。

「臨也」
「……うん」
「生まれてきてくれてありがとう」

きゅっと、俺の背に回された指先に力がこもった。
ああ、やっぱ俺こいつが好きだな。すっげぇキスしたい。
そう思ったところで手を出すことなどできるはずもなく。
俺はただ臨也を腕に抱いたまま、一度深呼吸して、自分を抑えるだけだ。

「…シズちゃん、プレゼントは?」
「あ?」
「ないんなら、昔みたいにほっぺにキスして」
「………」

いや、用意はしてあるんだけどな。
でも本人がこう言ってるんだし、頬ならセーフだよな。うんセーフだと思う。
動揺を悟られないように注意しながら、俺は首から離れた臨也の滑らかな頬に唇を寄せて。
ちゅっと小さな音を立ててキスした。
…ああ、やべぇ。これ、臨也を好きだって気付いて以来のキスだ。
そう思ったら、じわじわと顔が熱くなってきて、内心慌てる。今の俺の顔はたぶん赤い。やばいこれじゃバレる…どうするか。

「ありがと、大好きシズちゃん」

そう言って、またすぐ抱きついてきた臨也を抱きしめ返して。
俺は、幸せ半分焦り半分な心地のまま、臨也が離れるまでに赤くなってしまった顔が元に戻ることを祈ったのだった。












※我慢するおおかみさんと内心襲ってもいいのにと思ってる臨也さんの噛み合わない記念日のはなし。