たまには、
※2011年4月20日、しずおの日。だけど別に静雄さんは祝われていない。

















それは、実に一ヶ月ぶりの逢瀬だった。
仕事に忙殺された結果、顔すら合わせず一ヶ月。
別に付き合い始める前ならば大した時間でなかったそれが、酷く寂しく、そして物足りなく感じていた。

「シズちゃん、ねぇシズちゃんってば」

パタパタと後ろをついて歩いてしまうのもそのせいだ。
そう理解し自分の行動に呆れながらも。
それでも臨也は改める気もなく、静雄の後ろをついて歩く。

「手前な…少しは大人しくしてろ」

溜息と共に吐き出された言葉にムッとする。
シズちゃんは俺がいなくても寂しくなかったのかよ。
むうと秀麗な顔を不満に歪めて、臨也は静雄の腕に手を伸ばした。
振り払われないのをいいことにぺたぺたと触ってその感触を確かめて。
自分がどれだけこの存在に飢えていたのかを実感し、わからぬ程度に頬を緩める。
そんな臨也を横目で見ながら、静雄はやれやれと溜息をついた。

「…手前はホントこういう時ばっか」
「?…なに?」
「あー…なんでもねぇよ。いいからあっちで座ってろ。コーヒー入れてやっから」

わしわしと頭を撫でた静雄があっちと指差したローテーブルへ視線を移して。
それからかき回されてぐしゃぐしゃになった髪を手櫛で整えた臨也は、僅かに迷った後、頷く。
鬱陶しがられるのは構わないが、あまり付き纏って部屋を追い出されるのは困るのだ。ここは大人しく言うことを聞いてやることにしよう。
そう思い。名残惜しいが手を離した。
狭い室内を十歩も歩かないで辿りつくそこに座って、じっとキッチンに立つ静雄の後姿を眺めて、溜息。
後姿までかっこいいとか反則だろ…。ちくしょうとりあえず写メってやる。
許可も得ずにパシャリと一枚。携帯のカメラにしてはきれいに撮れたと満足して。
臨也は、撮られたことにまったく気付かずやかんを手に取る静雄から視線を外し、撮ったばかりの写真を待ち受けに設定した。
そうこうしている間に大した時間をかけず――インスタントなのだから当然だが――カップを二つ持ってやってきた静雄は、携帯を弄る臨也の前にそれを置く。

「ありがと」

整った男前な顔をじっくりと観察しながら礼を言えば、何故か溜息をつかれた。
なんだと言うんだ失礼なやつめ。

「…本当に、…あー…ったく」
無意識じゃねぇよな?自覚あるよな?
そうぼやくように呟く静雄に、臨也は首を傾げると。
視線から逃れるように、青いサングラス越しではない色素の薄い目が逸らされた。
それを少し残念に思いながら、カップを片手にぼんやりと観察を続ける。と、相手がちらりと一瞬臨也に視線を向ける。
小さく舌打ちして細く息を吐き出す唇。

――あ、キスしたい、かも。

唐突に思った。
そして、そう思ったらもう、その思考を止めることはできなかった。

「……、…」

どうしよう。これが一ヶ月前であったなら、臨也もからかいを混ぜつつキスを強請れただろう。
だが、一ヶ月という時間一切の接触がなかったあとでそれを強請るのは、何故かとても気恥ずかしかった。
うううと唸って視線を泳がせて。
臨也はどうしようどうしようと頭の中で煩悶する。
どうすれば自分から言い出さずに静雄をその気にさせられるのか。ぐるぐると頭を高速回転させようとするが、欲求が勝ってどうしてもいい案が出てこない。

「…ふ、ぇ?」

考え込む臨也の意識が逸れていたのは時間にしてほんの数秒。
その間に何を思ったのか、静雄が動いて。
こつりと額と額が軽くぶつかった。

「ホント…手前ってこういう時ばっかやけに可愛いとか反則だろ」
「は…?え?…いや、っていうかなに?なんで、こんな、ちかいの…?」
「…欲しいんだろ?」
「う、え…?…な、なにが…?」
「ん?」

首を傾げる男の笑みは、可愛らしい動作に似合わないものだ。
静雄にしては婉曲な言い方だが、明らかにこれは臨也が何をしたいか理解しての問いだった。
そう悟らせるに充分な、にやりという形容の似合う笑み。
そんな笑みを浮かべた男は、臨也が逃げないように頬を両手で挟んで、さらに顔を近づけてきた。
ギリギリのところで止められる唇。
接触寸前のそれは、体温を感じそうなほど近い。

「キスして欲しきゃ言えよ」

低く囁く声はからかう響きで。
肌を撫でる吐息と声に、ぞくりと背筋が泡立った。

「――〜〜〜っ」

悔しくて顔を真っ赤にしたまま睨みつけた臨也に。
静雄はくくっと笑ってもう一度、言う。

「言えよ、臨也。キスして欲しいって」

言わなきゃしてやらねぇ、とか。そんな意地悪なことを言う静雄に。
翻弄されるのはくやしいけれど我慢できず、臨也がキスしてと小さく掠れた声で言うのは、それから数分後のことだった。












※420の日なので「かっこいいしずおさん」を目指そうとしたもののどこでどう狂ったのか挫折した…。そんな420デー。