嘘もホントも
※2011エイプリルフール。『けもみみパラレル』小ネタ。











「黒い狼ってかっこいいよねぇ」
「あ?」

ぽつりと呟いた言葉に静雄が反応した。
強い視線を意識しつつ、それでも臨也は言葉を続ける。

「幽くんに昨日会ったんだけど、さすがシズちゃんの弟って言うかさぁ」
「………」
「俺、幽くんだったら狼でも結構余裕でお付き合いできたかも――ッ!」

ケラケラ笑って軽い口調で言った途端。
臨也は静雄に組み敷かれていた。

「…しーずちゃん、そんな顔しないでよ。」
「うるせぇ」
「いやいや、シズちゃんホント止めてよ。俺の腕今ものすっごくミシミシいってて痛いんですけど」
「………」

険しい表情で自分を見下ろす茶色の耳の狼族。
その嫉妬の色を隠さない瞳にやれやれと溜息を零れる。
どうやらシズちゃんにこの手の冗談や嘘は拙いらしいな、としっかり優秀な頭に記憶させてから。
臨也はくつくつと笑って、掴まれていない方の手を伸ばして、静雄の頬に触れた。

「シズちゃん、嘘だよ。嘘。俺はシズちゃん以外と付き合う気なんてないよ」
「………」
「あ、信用できないって顔だね?言っとくけど本当に嘘だよ?だって今日、四月一日だもん」
「……あ?」

くくっと喉を鳴らして言えば、怪訝そうな顔。
首を傾げる静雄に笑みを深くして、狼の厚みのあるもこもこした耳も撫でる。
だから四月一日、ともう一度口にすれば、ようやく『四月一日』の意味を理解した狼族は苦虫を噛み潰したような表情で唸った。

「俺はシズちゃんだけだよ」
「…それも嘘じゃねぇだろうな?」
「あはは、信用ないなぁ俺。嘘じゃないよ。ほら――」

指差してやれば、静雄の視線もそちらに向く。
時計の針は午前0時を1分過ぎたところだった。

「もう四月一日は終了でしょ?」
「あー…そうだな」

納得のいっていない表情をして臨也を睨みつけて。
渋々といった様子で手を離した静雄は、ぱさりと尻尾を振って唸る。

「本当に、俺だけだろうな?」
「ん。シズちゃんだけだよ」

起き上がって、座る静雄の膝に乗り上げた臨也はこつりと彼の額に自分の額を軽く当てた。
伝わる体温が心地良くて、嬉しくて。自然に頬が緩むのを自覚する。

「俺が好きなのはシズちゃんだ。俺は、シズちゃんがいいんだよ」
「…黒くなくてもか?」
「うん。黒くなくても」

って言うかそこはこだわるところなのかなぁと思わなくもないが、それは言わない。
茶色でも黒でも、臨也にとってみれば静雄でなければ意味はないのだが、それはまあその内、別な機会にでも言ってやればいいだろう。
余計な言葉は飲み込んで、代わりに唇にキスを一つ。

「シズちゃん大好き」

甘えるような声に、静雄の尻尾がぱたぱたと嬉しそうに揺れる。
ちゅっと音を立てて唇を食まれて、臨也はもっとして欲しくて離れる寸前のそれを舌で舐めて誘いかけた。












※黒猫さんの手のひらで転がされてる静雄さん。っていうかナチュラルにお泊りなのか君ら…。

エイプリルフールは嘘をついてもいい日というよりは、遊ばれても怒っちゃいけない日という感じですよねー、と思いつつ。
『ケモノの王様』で静雄が気にしていたのはこの時の臨也の発言だったという話。