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※2011静誕企画おまけ。通常シズイザ。











もうすぐ日付が変わろうという頃。
臨也は夜の空を見上げていた。
静雄がよく座っている公園のベンチ、そこに座る彼は小さくくしゃみをして、むうと眉間に皺を寄せた。

「さむ…」

ふるりと寒さに体を震わせて、ぼんやりとただ空を見上げたまま。
臨也はあーあ、と呟いた。
あと数分で終わる今日は、1月28日。
臨也の天敵、平和島静雄の誕生日だった。
この日だけは、臨也は静雄の前に姿を現さない。そう自分でルールを定めて。そうして、日付が変わる少し前に池袋の街へやって来るのが、臨也の1月28日の過ごし方だった。

「せめて今日くらいは、ってね」
生まれたこの日くらいは自分の顔を見なくてすむように。それが臨也からの誕生日プレゼントだった。
気付かれなくていい。気付かれても困る。
だから、臨也はそれに気付かせないように、いつもこの日が近づくとタイミングを計って静雄に接触しているのだ。数日だったり、数週間だったり。感覚をまちまちにすることで、毎年この日に来ていないことに気付かれないように。
俺ってなんて健気なんだ、と健気という言葉を履き違えた感想を頭に浮かべて、臨也は笑った。
そろそろかな、と携帯を見れば、時刻は11時59分になるところ。
あと1分で静雄の誕生日が終わるのだと確認して、臨也はポツリと呟く。

「誕生日おめでとう、シズちゃん」

毎年恒例の自己満足の言葉を口にして。
さて、ともう一度携帯を見ようとした臨也だったが。

「手前な、そういうのは本人の前で言わなきゃ意味ねぇだろうが」

と、後ろから声がして、ピシリと固まった。
あまりの衝撃に身動きできない臨也に構わず、声の主の足音が近づく。

「な、なんで…」

今の今まで、臨也は彼の存在に気がつかなかった。
気を抜いていたつもりはなかったが、どうやらそうでもなかったらしい。まさかここまで接近を許すとはと自分のうかつさを呪いたい気分になる。

「よお、ノミ蟲。池袋に来んなって何度言えば手前は理解するんだ?」

目の前に回ってきた声の主――静雄に、臨也はごくりと唾を飲み込んだ。
静雄の手には何もない。何かを投げつけられる可能性は…小石か何かを持っているのなら別だが…ないはずだ。
緊張しながらも逃げる隙を伺う臨也に、静雄は不機嫌そうな顔のまま言う。

「まったくよぉ…毎年毎年、ぜってぇこの日は俺の前に現れやがらねぇ。いい加減にしろよ手前」
「…べ、別にいいだろ。だいたい誕生日に俺の顔見なくてすむんだから、喜ばれこそすれ怒られる覚えはないんだけど?」

ばれてたということにさらに衝撃を受けながらも何とかそう返せば、静雄はさらに眉間に皺を寄せる。
「ああ?俺がいつ手前にそんなこと頼んだよ?」
「そりゃ、頼まれてはいないけどね」
せっかくのお祝いの日に俺になんか会いたくないだろ?と訊く臨也に。
静雄ははあ、と盛大な溜息をついた。

「あのな、ノミ蟲」
「な、なにさ」
「俺は、手前に今日来るななんて言っちゃいねぇ」
「………」
「ま、ホントはいつだって来ねぇなら来ねぇ方がいいけどよ」
「…………じゃあいいじゃないか」
「だけどな、今日だけは来てもらわなきゃ困るんだよ俺が」
「はぁ?何でシズちゃんが困るのさ?」
「うるせぇ、こっちの都合だ」
「意味分からないんだけど」

なんなの君、と苛立ち気味に問うと、静雄はだからな、と何か言おうとして――。
そこで、臨也の携帯が鳴って、言葉が途切れる。

「…今、何時だ?」
「24時丁度」

セットした時間を正確に知らせるアラーム。
それを聞きながら答える臨也に、静雄はちっと舌打ちした。

「…あー…ったく、29日になっちまったじゃねぇか」
「だから何だって言うのさ」
「ったく、まあしょうがねぇか。この調子じゃ来年も同じことになりかねねぇしな」

がしがしと頭を掻いて、静雄は溜息を一つつく。

「毎年今年こそは言おうと思ってんのに、手前がこの日だけ来ねぇせいでもう3年だ」
「…?」
「臨也」
「な、にさ」

妙に真剣な目で見詰められて、思わず僅かに後ずさる臨也だったが。

「俺は、手前が好きだ」

次いで静雄の口から生まれたその言葉に、その動きさえ止めてしまう。
「―――――は?」
すき…好き?
固まることしばし。
ようやく脳に正しく言葉の意味が伝わって、臨也は瞬時に真っ赤になった。

「は、うそ…なに、それ、なんの冗談」
「嘘じゃねぇし、冗談でもねぇ。なぁ臨也。手前は、手前も俺が好きだよな?」

断定する声と、否定が返るとは微塵も思っていない表情。
どこから来るんだその自信はといつもの臨也なら言えただろうが、残念なことに今の彼には無理だった。
図星を指されて真っ白になった頭は言葉を紡ぐ余裕すらない。

「おい臨也?」
さらに声をかけられても、何を言えばいいのか分からない。
何か言わねばと口を開いたところで、出てくるのは意味をなさない音の羅列だけだ。

「う、や…あの、その」

うろたえてろくに喋れなくなった臨也に、仕方ねぇな手前はと文句を言って、静雄は臨也に手を伸ばしてくる。
身構えるまもなく捕まって引き寄せられて。

「来年はちゃんと日付が変わる前に言いに来いよ」

耳元に囁かれた言葉は、笑いを含みながらも真剣な響きだった。
くしゃりと頭を撫でられて、ついでのように頬を掠める柔らかい何か。


それが何だったのかを臨也が正しく認識できたのは、静雄がじゃあなと言って歩き去ってだいぶ経った頃のことであった。












※日付が変わる少し前に上げるつもりでうっかり上げ忘れたおまけです。超遅刻。